接客業をしていると、人を見るようになります。いや。正確には、人を見ないと仕事にならなくなります。私はあと数日で、今の接客業を退職します。せっかくなので、最後に接客業をやっていて身についた「人の見方」をまとめてみようと思います。

ただし、これは占いでも、人相診断でもありません。ましてや、「こういう人は悪い人だ!」という話でもありません。もっと雑な話です。「あ、この人はちょっと普通から外れているな」これを遠くから感じ取る。

接客業では、これが意外と大事だったりします。

接客業は1日に何百人もの人を見る

店にもよりますが、接客業では1日に何百人もの人を見ることができます。当然、全員が同じではありません。私の完全な肌感ですが、

60%くらい……黙って普通に買い物する人

20%くらい……質問したり話しかけたりする普通のお客様

10%くらい……「この人いい人だな」と感じる良客

10%くらい……対応に気を使うお客様

こんな感じです。もちろん統計ではありません。接客業をやっている人間の体感です。

そして、この最後の10%。接客業では、意外と早い段階で気づきます。「あれ?」「なんか嫌な予感がするな」というやつです。

なぜ遠くから見るのか

普通、人を判断するときは顔を見ます。表情を見ます。話し方を聞きます。でも接客業では、その前に見ることがあります。距離です。なぜなら自己防衛をするなら、「近づいてから判断する」では遅いからです。声が聞こえる。会話ができる。腕が届く。そこまで近づいてから、「この人、ちょっと怖いな」では意味がない。だから店員は、無意識に遠くから、

服装 

声 

動き 

周囲との距離感 

店内での振る舞い 

を見ています。つまり、顔ではなく「その人と周囲との関係」を見ている。これが接客業の人間観察です。

① 服装が極端に場から浮いている

まず遠くから分かるのが服装です。特に気になるのが、色使いや組み合わせが極端に目立つ人。ただし、派手な服を着ているから危険という話ではありません。おしゃれな人もいます。個性的な人もいます。単純に本人の好みということもあります。では、なぜ見るのか。「この場所に対して、どのくらい自分を合わせているのか」を見るからです。人間は意外と、「その場ではこれくらい」という共通認識を持っています。学校なら学校。職場なら職場。病院なら病院。スーパーならスーパー。もちろん個人差はあります。でも、「普通」というものには、完全ではないにしても、ある程度の共通認識がある。だからこそ、そこから大きく外れる人は目立つ。そして接客業では、「なんか目立つな」という違和感から、次の行動を観察するわけです。

② 場にそぐわないくらい声が大きい

これも遠くから分かります。店内なのに、「いや、そこまで大声出さなくても聞こえますよ」というくらいの声。電話しながらもそうです。これも、「声が大きい=悪い人」ではありません。元々声が大きい人もいます。耳が遠い人もいます。楽しくなって声が大きくなる人もいます。ただ、接客業では、その場に合わせて声量を調整できているかを自然と見ています。これは服装と同じです。「普通の声量」という明確な数値はありません。でも、「この場所なら、このくらいの声」という共通認識はあります。そこから大きく外れると、「この人、周囲への意識が少し違うのかな?」と観察対象になる。接客業が見ているのは、実は声の大きさそのものではありません。周囲に合わせる能力です。

③ 商品の扱いが激しい 通路を塞ぐ、急に下がる、突然振り返る

これも地味ですが、かなり見ています。通路の真ん中で止まる。後ろを確認せず突然下がる。人がいるのに急に方向転換する。商品を見ながら後ろに下がって、別のお客様にぶつかりそうになる。こういう動きです。本人には悪意なんてありません。単純に商品に集中しているだけかもしれない。でも、「周囲に人がいることをどのくらい認識しているか」は、接客業にとって重要です。これも結局、「普通なら、この場所では少し端に寄るよね」という共通認識から外れているわけです。そして、この「普通からのズレ」が大きいほど、「ちょっと注意しておこう」となる。別に悪人認定しているわけではありません。ぶつからないように距離を取っているだけです。

④ 子どもや周囲への注意が極端に薄い

家族連れでも、接客業は結構見ています。子どもが走る。これは普通です。子どもですから。泣くこともあります。突然どこかへ行くこともあります。それ自体は問題ではありません。気になるのは、周囲に危険があっても、保護者がまったく反応しないケース。人にぶつかりそうになっても放置。商品を倒しても放置。店員が声をかけても反応しない。こういう場合は、「この後、何か起きるかもしれない」と警戒します。これも結局は、周囲への注意があるかどうか。です。

じゃあ「普通」って何なんだ?

ここが今回、一番言いたいところです。「普通」という言葉は、あまり好ましい使われ方をしません。「普通はこうする」「普通の人なら分かる」「普通じゃない」こういう言葉は、人を縛ってしまうことがあります。だから、「普通でなければダメ」という話ではありません。人それぞれです。個人差もあります。育った環境も違います。性格も違います。価値観も違います。それでも、人間が集団で生活している以上、「だいたいこの辺が普通だよね」という共通認識は存在します。

例えば、人が並んでいたら後ろに並ぶ。通路の真ん中で止まらない。静かな場所では声を落とす。人が近くにいたらぶつからないようにする。店員に何か聞くなら、ある程度普通の声で話す。こういうものです。全部を守らないとダメという話ではありません。

ただ、このボーダーから大きく外れる人を見ると、人間は自然に警戒する。

接客業は、それを毎日何百人も相手にすることで、どんどん敏感になっていきます。

実は「普通から外れる」には積み重ねもある

ここで少しだけ、身体の話にも触れておきます。例えば、服装。髪型。姿勢。歩き方。声。動作。生活習慣。こういうものは、毎日の生活の積み重ねが出る部分があります。長年の生活習慣が、姿勢や体の動き、身だしなみなどに表れることもあります。だから接客業では、「一瞬の姿」だけではなく、

長年積み重なったものが作る全体的な雰囲気を見ている

ことがあります。ただし、ここは絶対に勘違いしてはいけません。事故や病気、加齢など、本人ではどうしようもないものもあります。そこから、「この人は危険だ」と判断するのは違います。だから見るべきなのは身体そのものではなく、現在の行動と周囲への配慮。ここです。

「嫌な予感」の正体

接客業で、「なんか嫌な予感がする」というと、オカルトみたいに聞こえます。でも実際には、過去に何百人、何千人という人を見てきた経験から、「このパターン、前にもあったな」と脳が判断しているだけなのかもしれません。服装がこう。声がこう。動きがこう。周囲との距離感がこう。そして過去に似たタイプのお客様でトラブルがあった。すると、「今回は少し気をつけよう」となる。

これを僕は、接客業の経験値だと思っています。

最後は「人を決めつける」ためじゃない

ここまで読んで、「じゃあ普通じゃない人は危険なの?」と思った人もいるかもしれません。違います。普通から外れている=悪い人ではありません。

個性的な人だってたくさんいます。声が大きい人もいます。服装が派手な人もいます。ちょっと不器用な人もいます。それだけで危険人物になるわけではありません。

最後に不思議なのは、良客の方たちも①で述べた、この普通ではない服装。個性的な特徴があることです。違いはいつも笑顔なところですね。

接客業がやっているのは、人間をカテゴライズしているのではなく、リスクを早めに拾っている。これだけです。そして、少しでも嫌な予感がしたら、近づきすぎない。一人で対応しない。必要なら同僚に共有する。相手を刺激しない。それだけでもトラブルを回避できることがあります。

業務は業務として、きちんとやる。でも、自分の安全まで犠牲にする必要はない。これも接客業の仕事の一部だと思います。私はあと数日で、この仕事を離れます。たくさんのお客様を見てきました。その中で最後に残ったのは、「人は見た目では分からない」という当たり前のこと。そしてもう一つ。「普通」という曖昧なボーダーから大きく外れたとき、人は自然と違和感を覚える。その違和感を、「差別だ」と全部捨てる必要もない。逆に、「この人は危険だ」と決めつける必要もない。ただ、少し距離を取る。それだけでいい。接客業で身についた、私なりの自己防衛術です。

■著者プロフィール ダボ猫

資産形成と暮らしの記録

大手自動車メーカーで製造業を19年経験した後、販売・接客の仕事へ。投資・資産形成、転職、仕事、家計、節約、家族、日々の暮らしについて、実体験をもとに発信しています。「普通のサラリーマンでも、少しずつ人生は変えられる。」そんな目線で、実際にやってみたこと、失敗したこと、考えたことを記録しています。資産形成だけではなく、仕事や人生についても、ちょっと肩の力が抜けるような記事を書いています。

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