うちの弟は、小学校からある一貫校に入りました。ウチの親は中卒で事業をしていて、教育のシステムには正直あまり詳しくない人たちでした。だからこそ、私立の一貫校に子どもが通っているというのは、ちょっとした自慢の種だったんだと思います。周りにもよく話していましたし、弟自身も、家族の中では「できる子」として扱われていました。幼稚園を出たら、電車とバスを乗り継ぎ、通学をする。それが当時の弟でした。
雲行きが変わったのは、中学のタイミングでした。
外部から、中学受験を勝ち抜いてきた学力の高い生徒たちが、どっと入ってくる。小学校から内部で上がってきた子たちと、そういう外部生が同じ教室に混ざるわけです。弟は、そこで一気に順位が下がりました。「できる子」として扱われてきた反動もあったのか、本人にかかっていたプレッシャーはかなり大きかったはずです。周りに自慢されている手前、余計に「今さら落ちこぼれました」とは言い出しにくかったんじゃないかとも思います。
結局、その学校にはいられなくなって、中学3年で地元の地元の公立中学に転校しました。そのあと工業高校に進みましたが、そこにもうまく馴染めず、中退しています。最終的には大検を取って、少し回り道をした形で先に進みました。弟からすれば突然別の世界にいくわけですから、かなりしんどかったはずです。
実は、似たような話を、何度も聞いたことがあります。
(中高一貫)中学入学のタイミングでウチの街の小学校から入った子が、やはり馴染めず、辞めていくケースがあるという話です。中学を地元の中学に転入する形で、もう一貫の高校へは行かずに別の学校を受験という形です。
(小中一貫)弟のように、小学校を私立の小中一貫で過ごし、中学入学から地元に戻ってくるという形。
学校が違っても、原因はちがっても、構造はほとんど同じでした。つまり、これは特定の一校だけの問題ではなく、「内部進学」と「外部からの中学受験組」を同じ教室に混ぜるタイプの一貫校に、ある程度共通して起きていることなんだと思います。
一貫校では、学力層も背景もばらばらな生徒が同じクラスに混ざります。先取り学習も一般的で、中学のうちに高校の内容へ入っていくようなカリキュラムだと、一度つまずくと自力で追いつくのがかなり難しくなります。
「深海魚」という言葉があるそうです。地元で優秀だった子が、進学校に入った途端、校内の順位では下位に固定されてしまう。そういう現象を指すのだと、今回調べていて知りました。
弟のことを思うと、これはかなり的確な表現だなと感じました。
そしてもうひとつ、親として知っておいたほうがいいと思うのは、こういう学校で実際に何人くらいの生徒が、進級のタイミングなどで転出したり、不登校になったりしているのか、その数字はほとんど外に出てこないということです。私立学校には、公立と違って中退者数を公表する義務がありません。進学実績はアピールになりますが、退学率や不登校の割合は、学校のイメージにとってプラスにならない。だから、公式にはまず出てこない。
一方で、地域の保護者の間や、ネットの受験コミュニティのようなところでは、「毎年何人かはいなくなる」という話が、なかば公然の事実として語られていたりもします。表の実績と、裏で起きていることのあいだに、けっこうな距離があるということなんだと思います。
受験を考える段階では、どうしても合格実績や進学先といった、目に見える華やかな部分にばかり目が行きます。その裏側で、環境や進度に合わずに苦しんでいる生徒がいるという実態は、当事者かそれに近い立場にならないと、なかなか実感しにくいのだろうと思います。
弟のケースについて、今、何か結論めいたことを書くつもりはありません。学校のシステムが悪かったのか、本人に合う場所ではなかっただけなのか、たぶんそんなに単純な話でもない気がしています。ただ、少なくとも、こういう構造があるということ自体は、これから一貫校を選ぼうとしている親御さんには、知っておいてほしいと思います。希望に満ちたパンフレットには書かれていない話なので。
大手製造業を経て、現在は販売業に従事。資産形成歴は約7年。ダボ猫という名前でブログ「ダボ猫チャート」を運営しています。
No responses yet